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nils-3-thumb.jpg『ニルスのふしぎな旅』刊行に寄せて

 このたび、『ニルスのふしぎな旅』をようやく形にすることができました。福音館書店編集部から「『ニルス』を訳しませんか?」と声をかけていただいてから、丸8年。その間、『ニルス』だけを訳していたわけではないので、実際、この本に費やした時間は正味4年ぐらいだったかもしれませんが、やはり今は大作 をやり終えたという達成感で胸がいっぱいです。

 『ニルスのふしぎな旅』がスウェーデンで最初に出版されたのは、今からちょうど100年前のことです。前半が1906年に、後半が1907年に出版され ました。当時スウェーデンでは教育熱が高まり、「子どもたちがスウェーデンの地理つにいて楽しく学べる新しい本」が必要とされました。その書き手として、白羽の矢が立ったのが、すでに作家として注目されていたセルマ・ラーゲルレーヴ(1858-1940)でした。1909年にはスウェーデン人として初め て、また女性として初めてノーベル文学賞を受賞することになるセルマが、「教科書としてだけでなく、物語としても完成度の高いもの」をめざして何年もの苦労の末、まとめあげたのが、『ニルスのふしぎな旅』なのです。

 人間の手のひらほどに小さくなってしまった少年ニルスが、ガチョウの背中に乗ってスウェーデン中を旅する『ニルス』の物語には、実にさまざまな魅力があります。この「ニルスのページ」では、私が訪れたゆかりの地の写真や翻訳のこぼれ話などを、随時ご紹介していきたいと思います。

 さて、まず物語の第1章では、ニルスはトムテに意地悪をしたために魔法で小人にされてしまいますが、それはお父さんとお母さんが教会へ出かけて留守の間のできごとでした。左の写真は、ニルスの家があるとされる西ヴェンメンヘーイ丘の教会です。つまり、お父さんとお母さんがこの教会に日曜日の礼拝にきてい るときに、ニルスはモルテンと旅に出てしまったということになります。もちろん、ニルスは実在の人物ではありませんが、物語の舞台は現実に訪れることができます。ニルスの視点でスウェーデン各地を見てまわるのは、本当に楽しいものです。
(2007年6月13日)